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広島地方裁判所 昭和48年(手ワ)34号 判決

原告

宮口富義

被告

広一興業株式会社

右代表者

藤越力

右訴訟代理人

新谷昭治

主文

一  被告は、原告に対し、金五七万円を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分にかぎり、仮りに執行することができる。

事実《省略》

理由

〈証拠〉を総合すると、つぎの事実が認められる。すなわち被告会社では社長藤越力の縁故関係等から出資を受ける際借用証を出す代りに約束手形を振り出す扱いとなつていたが本件各手形も借入金の弁済期が到来するので手形書替のため、社長の指示により同社事務員斉藤ミヨ子が支払場所広島相互銀行駅前支店支払地広島市の印刷記載がなされている本件各約束手形の振出人欄に被告会社の所在地、商号、代表者名を記載したゴム印及び代表者印を押捺し、支払場所欄に被告会社名を記載したゴム印を押捺しその余の記載はしないで事務所机上に保管していたものであるがその後本件各手形が支払呈示されるに及び盗難もしくは紛失の事故を発見し支払いを拒絶するに至つた。他方訴外三上裕規は訴外佐藤朝夫から受取人欄だけ白地であつた本件各手形の割引斡旋の依頼を受けたので二度、原告方に赴き裏書人欄に三上裕規の署名をして割引を受け、その金を訴外佐藤に手渡した。

原告は不動産金融鳥獣剥製加工を業とする興亜開発株式会社の代表取締役であつて、訴外三上裕規とは取引関係はないが自社の役員をしている池口勝正が庄原出身で三上と同郷であることから三上とも面識があつたものであるが三上から本件各手形の割引を依頼されたので本件各手形の取得原因を尋ねたところ三上が訴外佐藤に対する貸金五〇万円の弁済として取得したと述べ手形の信用調査のため信用組合に照会して支払場所である広島相互銀行駅前支店につき手形取引の実情、本件各手形額面金額の支払能力をただしたところ、この程度の金額なら懸念はない旨の返事であつたので各手形につき割引料として三万円位を控除したうえ割引金額を三上に手渡した。

本件各手形の額面金額記入のチェックライターの印字は被告が使用しているチェックライターの印字と異なること本件各手形に貼布されている収入印紙には消印がなく、手形用紙の原符と接する部分に割印が押印されていない。

訴外三上裕規は被告に対し支払期日後の昭和四八年四月二〇日、本件各手形を事故手形と称してそれと和解書を原告から同月二七日に受取つてこれを被告に持参し解決することを誓約した。

以上の事実が認められる。

〈証拠排斥略〉

右認定事実に徴すると本件各手形は被告が流通に付する意思を以て振出人欄及び支払場所欄の記載をし振出人名下の代表者印を押捺したものと認めることができ他方前記佐藤朝夫が本件各手形を入手した経路は判然としないし、盗難、紛失等その原因も定かでないが被告の意思に反して転々流通したものと認めることができる。

そこで手形の流通証券としての機能を確保すべき要請と振出人の利益保護の必要性との関連の下で本件各手形の振出責任を検討するに本件各手形が被告の意に反して流通されるに至つたのは、被告が本件各手形の保管につき充分な注意をなさなかつたことにも原因があるということができ、又手形用紙綴中には本件各手形の原符が残存しているのであるから本件各手形が原告から支払のため呈示されて始めて盗難もしくは紛失の事故を発見したとするのは手形振出人として著しく不注意といわなければならない。そして本件各手形面の収入印紙に消印がないこと、原符と接する部分に割印がないことは手形の効力を左右する事情ではない。被告は原告が本件各手形を取得するにつき盗難等の事故手形であることにつき悪意、又は重過失があると抗弁するけれども前記認定事実に徴すると原告において訴外三上裕規が持参した本件各手形を割引くにつき盗難もしくは紛失等の事故手形であることを知りうべき手形外観が存するとはいえず、進んで被告につき振出の真否を確認しなかつたことが重大な過失にあたると断定することはできない。

そうすると被告は本来的に本件各手形の振出責任を負担すべきものであり、所持人である原告に対し手形金の支払を拒みうる具体的事情は存しないものということができる。

訴外三上裕規が支払拒絶後被告に対し本件各手形を事故手形と認めて原告から取返して解決することを誓約しているけれども被告の右支払義務に影響を及ぼすものではない。

そして原告が裏書の連続のうえ本件各手形を取得所持し支払期日に呈示したところ支払を拒絶されたことは当事者間に争いがないが〈証拠〉によると原告が本件各手形を支払期日に呈示したときには受取人欄が白地であつたことが認められ本訴提起前右白地が補充されたものであるから右各手形額面金額五七万円に対する支払期日の翌日から手形法所定の年六分の法定利息の支払いを求める請求部分は理由がない。

よつて本訴請求は金五七万円の手形金の支払いを求める限度で正当であるからこれを認容しその余は失当であるからこれを棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、仮執行宣言につき同法第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(田辺博介)

目録〈省略〉

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